小さな人生論〈3〉「致知」の言葉/藤尾 秀昭 08360 | 年間365冊×今年20年目 合氣道場主 兼 投資会社・コンサル会社 オーナー社長 兼 グロービス経営大学院准教授による読書日記

小さな人生論〈3〉「致知」の言葉/藤尾 秀昭 08360

小さな人生論〈3〉「致知」の言葉/藤尾 秀昭

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なんども読んでいるはず、なのだが。

今回もこの冒頭部分で涙があふれ、

なかなか先に進めない。


こうして、書き写していても

熱いものがこみ上げてくるのを抑えきれない。




 その先生が五年生の担任になった時、一人、

 服装が不潔でだらしなく、

 どうしても好きになれない少年がいた。

 中間記録に先生は少年の悪いところばかりを

 記入するようになってた。

 ある時、少年の一年生からの記録が目に止まった。
 「朗らかで、友達が好きで、人にも親切。
 勉強もよくでき、将来が楽しみ」とある。

 間違いだ。他の子の記録に違いない。

 先生はそう思った。

 ニ年生になると、

 「母親が病氣で世話をしなければならず、時々遅刻する」

 と書かれていた。
 三年生では

 「母親の病氣が悪くなり、疲れていて、教室で居眠りする」。

 後半の記録には「母親が死亡。希望を失い、悲しんでいる」とあり、

 四年生になると「父は生きる意欲を失い、アルコ―ル依存症となり、

 子供に暴力をふるう」。

 先生の胸に激しい痛みが走った。

 ダメと決めつけていた子が突然、

 深い悲しみを生き抜いている生身の人間として
 自分の前に立ち現れてきたのだ。

 先生にとって目を開かれた瞬間であった。

 放課後、先生は少年に声をかけた。
 「先生は夕方まで教室で仕事をするから、

 あなたも勉強していかない?
 分からないところは教えてあげるから」

 少年は初めて笑顔を見せた。

 それから毎日、少年は教室の自分の机で

 予習復習を熱心に続けた。
 授業で少年が初めて手をあげたとき、

 先生に大きな喜びがわき起こった。
 少年は自信を持ち始めていた。

 クリスマスの午後だった。

 少年が小さな包みを先生の胸に押し付けてきた。

 あとで開けてみると、香水の瓶だった。

 亡くなったお母さんが使っていたものに違いない。
 先生はその一滴をつけ、夕暮れに少年の家を訪ねた。
 雑然とした部屋で独りで本を読んでいた少年は、

 氣がつくと飛んできて、

 先生の胸に顔を埋めて叫んだ。

 「ああ、お母さんの匂い!今日はすてきなクリスマスだ」

 六年生では先生は少年の担任ではなくなった。

 卒業の時、少年から一枚のカ―ドが届いた。

 「先生は僕のお母さんのようです。

 そして、今まで出逢った中で一番すばらしい先生でした。」

 それから六年。
 またカ―ドが届いた。

 「明日は高校の卒業式です。
 僕は五年生で先生に担当してもらって、
とても幸せでした。
 おかげで奨学金をもらって医学部に進学することができます」

 十年を経て、またカ―ドがきた。

 そこには先生と出逢えたことへの感謝と、

 父親に叩かれた体験があるから、

 患者の痛みがわかる医者になれると記され、

 こう締めくくられていた。
 「僕はよく五年生の時の先生を思い出します。

 あのまま駄目になってしまう僕を救って下さった先生を、

 神様のように感じます。

 大人になり、医者になった僕にとって最高の先生は、

 五年生の時に担任してくださった先生です」

 そして一年。届いたカ―ドは結婚式の招待状だった。

 「母の席に座って下さい」と一行、書き添えられていた。

 本誌連載にご登場の鈴木秀子先生に教わった話である。

 たった一年間の担任の先生との縁。

 その縁に少年は無限の光を見出し、それを拠り所として、

 それからの人生を生きた。

 ここにこの少年の素晴らしさがある。

 人は誰でも無数の縁の中に生きている。

 無数の縁に育まれ、

 人はその人生を開花させていく。

 大事なのは、与えられた縁をどう生かすかである。





私も無数の縁に育まれている。

生かされている。

その有り難さ、素晴らしさに、

何故か身が震える思いがした。





致知 12月号 06013

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